妄想族のWakWakレポート

脳内で湧く『妄想』を好き勝手書き散らします。

ある男の朝。エデンへと向かう道。現代のポンペイは死の町となるのか。ノンフィクションショートショート。

急な腹痛に襲われる。



ビルの階ごとに設置されているトイレ。


男は自分のいる8Fのトイレに入る。



たまにあることだ。



そういう時に限って。



男子トイレに二つ設置の



便座はいずれも使用中。



エレベータではない。



階段を選択。ひとつ下の階へ。



7F。



そこのトイレも既に先客が。



そうか。



踵を返し、階段へ。



6F。



手前は使用中。



しかし奥が空いている。



助かった。



ふぅ、と息を吐き個室の中へ。



便座に張り紙が。



『故障中』、の文字。



ざわ。



にわかに下腹部から



マグマの滾る音が聞こえる。



しかし冷静を装いながら、



再び階段を目指す。



スピードを上げスマートに二段飛ばしで下り始めたが



判断を誤った。



その衝撃が解放を今かとその時を待つ



下腹部を突き上げたのだ。



あわや火口を破り噴火寸前に。



その場で立ち止まり、精神を統一する。


そう、イメージはどこ迄も澄んだナポリの青空と


眼下に臨む穏やかな地中海を。



シチリアから吹く柔らかな風を。

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時のヴェスヴィオよろしく活火山の様相を呈している下腹部の


マグマの波が僅かに引きはじめた。




今だ。


呼吸を整え逸る気持ちを抑えつけ、


振動を最小限に留める歩みに切り替える。



下腹部で寄せては返すマグマのそれと波長を合わせながら


ゆっくりと降りて行く。



一階分の階段がこんなに長い道のりだったかと錯覚する様な十数段。



4Fへ。



階段からのドアを開けると



ちょうど通勤のビジネスマンが近づいて来た。



あくまで冷静を装ってはいたが私の姿はどう映っていたろうか。



目線を外し小さく会釈をし道を譲る。


その視界の端に捉えた彼の行く先が私のエデン(目的地)と同一であることに



気付くと同時に再び疼き出す下腹部。





この波は大きい。



ヴェスヴィオ火山は私のポンペイを呑み込もうと


まさに火口を突き破ろうとしている。




噴火口からはにわかに火山ガスが噴出された。



もう噴火は止められない。



時間の問題だ。



いつからか額にはびっしりと汗が張り付いている。



判断を悔やむ時間は無い。



直ぐにその後を追う。



数步先の彼がエデンの園に姿を消す。



最悪が脳裏を過る。



彼と誰かがエデンを占領していたら。



マグマは噴火口を突き破る。



次のエデンはもう無い。



ジ・エンド。



そこで現代のポンペイも死の町と化す。



最後は神に祈るほかないのか。



天災の前に人間という存在はなんてちっぽけなものなんだ。



ポンペイの命運を、その扉を掴む手に重ねエデンの園を開く。


















「ポンペイは救われた」







小便器に陣取ろうとする先のサラリーマンは



私に一瞥をくれたが、



構う暇は無かった。



最早一刻の猶予も無い。



手前のエデンに滑り込み勢いよく扉を閉め鍵を掛ける。



ポンペイを引き下ろす。



刹那。



ヴェスヴィオは歴史を繰り返す。






しかし現代のポンペイは救われたのだ。



安堵感と歴史を変えた高揚感に包まれエデンを後にした、




ある男のある日の朝の出来事。